ワシントンワインの歴史
ワシントンワインの歴史は、1825年に最初のブドウの木が植えられたことに始まります。 パイオニアであるウィリアム・B・ブリッジマン(William B. Bridgman)が、1900年代初頭にヤキマ・ヴァレーにブドウの木を植えたことが、その後の発展の礎となりました。その後、ワシントンワイン産業の父として知られるウォルター・クロア博士(Dr. Walter Clore)が、ワシントン州でよく育つ品種の研究を行い、今日の繁栄の礎を築きました。現在、ワシントンのワイン産業は1,000以上のワイナリーと80種類以上の品種を栽培し、世界的に高い評価を受けています。ワシントンワインの歴史とその重要な瞬間を辿ってみましょう。
1. 始まり 1825年~1934年
2. 形成期 1835年~1995年
3. 現代 1997年~2021年
1. 始まり 1825年~1934年
1825年:ハドソンズ・ベイ・カンパニー(Hudson's Bay Company)がイギリスから持ち込んだ種を、フォート・バンクーバー(Fort Vancouver)にワシントン州初のブドウを植える。
※ハドソン・ベイ・カンパニーは北米における毛皮貿易で大きな勢力を持っていたのみならず北米大陸の探検や植民地化にも深く関わったイギリスの会社で、フォート・バンクーバーはコロンビア川沿いのオレゴンとの境界付近に位置する貿易の拠点のみならず、経済や文化の中心地をして栄えていた。

1854年:オレゴン・トレイル*を通り東部から入植してきた人々により、ピュージェット・サウンド地域の苗木業者にハイブリッド品種がもたらされる。
1859~1860年:初のワイン用ブドウがワラワラ・ヴァレー(Walla Walla)に植樹される。
1869年:ヤキマ(Yakima)ヴァレーにフランス人ワインメーカーのチャールズ・シャンノ(Charles Schanno)がハドソンズ・ベイ・カンパニーの挿し木を植樹する。
1902年:ウィリアム・B・ブリッジマン(William B. Bridgman)がヤキマ(Yakima)のサニーサイド(Sunny Side)に到着し、灌漑を推進する。カスケード山脈の雪解け水から供給される大規模な灌漑によって、この地の眠っていた大地と晴れて乾燥した気候の潜在能力が解き放たれる。
1910年:第1回コロンビアリバー・ヴァレー・グレープ・カーニバルがケネウィックで開催され、ヤキマ (Yakima )やコロンビア(Columbia )ヴァレーで栽培されていたイタリアやドイツの品種が数多く紹介された。
1914年:後にサニーサイド(Sunnyside)の市長となる弁護士のウィリアム・B・ブリッジマン(William B. Bridgman)がワシントン州ヤキマ(Yakima)サニーサイドのハリソンヒル(Harrison Hill)にサンソー(Cinsault)を含むいくつかの品種を植樹。
このハリソンヒル(Harrison Hill)は後にワシントン州初のヨーロッパ系品種に特化したアソシエイテッド・ヴィントナーズ、そしてシャトー・サンミシェル( Chateau Ste. Michelle)へと渡り、当時シャトー・サンミシェルのCEOだったロングシャドウズ(Logn Shadows)のアレン・シュウプのアドバイスによりデリールセラーズ(DeLille Cellars)のワインメーカー・クリス・アップチャーチ(Chris Upchurch)へとバトンを繋ぎ、現在ワシントン州で最も高価でコレクターの多いワインハリソンヒル(Harrison Hill)となる。
1917年:ブリッジマンがスナイプス・マウンテン (Snipes Mountain)に初めてブドウを植樹。最近まで、1917年に植えられたマスカット・オブ・アレキサンドリアのブドウはまだ現役で生産されていた。
1920年:禁酒法の到来により、ワイン用ブドウの生産が停滞。
1933年:ワシントン州が24番目の禁酒法廃止州となる。
1934年:ナショナル・ワイン・カンパニー(NAWICO)とポムレル・ワイン・カンパニー (Pomerelle Wine Company) が創業。ワシントン州アルコール飲料法が可決され、アルコール管理委員会が設置される。

※「オレゴントレイル」とは、19世紀のアメリカ西部開拓時代、東部や中西部に住んでいた人々が、より良い生活を求めてオレゴン州へと旅した道のことを言います。彼らは、新しい土地で自給自足するため、様々な作物、そしてブドウも持ち込みました。
2. 形成期 1835年~1995年
1935年:ワシントンワイン生産者協会設立
1937年:州内に42のワイナリーが設立され、そのほとんどが果実酒と酒精強化ワインを生産。
1937年:後にワシントンワインの父と呼ばれるウォルター・J・クロア博士(Walter J. Clore)がプロッサーにある灌漑支所実験場(現在の灌漑農業研究・普及センター)の助手として就任する。ここではワシントン州中部で灌漑農業の可能性を探るため、クロアたちは約81ヘクタールの耕作不可能な土地に灌漑システムと実験畑を整備し、野菜やブドウなど、多様な作物の栽培実験を開始した。ウォルター・J・クロア博士(Walter J. Clore)は前述のウィリアム・B・ブリッジマン(William B. Bridgman)からブドウの挿し木を初めて受け取る。
1941年:カベルネ・ソーヴィニヨンをワシントン州で初めて植樹。
1942年:ワシントン州に24のワイナリーが誕生。
1954年:ナショナル・ワイン・カンパニーとポムレル・ワイン・カンパニーが合併してアメリカン・ワイン・グロワーズが設立され、グラナダ (Granada)のブランド名でグルナッシュ・ロゼを販売。
1956年:ヤキマ(Yakima)ヴァレーのオーティス・ヴィンヤード(Otis Vineyard)にカベルネ・ソーヴィニヨンを植樹。この樹は現在、州で最も古いカベルネの樹であり、国内でも最も古い樹のひとつである。
1960年:ウォルター・クロア(Walter Clore)博士がワシントン州立大学灌漑試験場でワイン用ブドウの実地調査を開始。
1961年:リースリングをワシントン州で初めて植樹。
1962年:1958年から趣味でワイン造りを始めたワシントン大学の教授6人を含む10人の友人グループによって、アソシエイト・ヴィントナーズ(Associated Vintners)が法人化される。その後、1983年にワイナリー名はコロンビアワイナリー(Columbia Winery)へと変更。
1963年:アソシエイテッド・ヴィントナーズがヤキマ・ヴァレーにハリソン・ヒル(Harrison Hill)ヴィンヤードを植樹。
1964年:シャルドネをワシントン州で初めて植樹。
1965年:メルロをワシントン州で初めて植樹。
1967年:アメリカン・ワイン・グロワーズが、カベルネ・ソーヴィニヨン、ピノ・ノワール、セミヨン、グルナッシュを造るヴァラエタル・ワイン専門のサン・ミシェル( Ste. Michelle )ヴィントナーズを設立。カリフォルニア・ボーリュー・ヴィンヤードBeaulieu Vineyardの著名なワインメーカー、アンドレ・チェリチェフ*(Andre Tchelistcheff)をコンサルタントに迎える。
※アンドレ・チェリチェフはカリフォルニアワインの父ロバート・モンダヴィの師匠と言われている。
1969年:カリフォルニア・ワイン法案が可決され、貿易障壁と規制が撤廃され、ワシントン州外のワイナリーも州内で販売できるようになる。州内にカリフォルニア産ワインが突然溢れ出したことで、ワシントン州民はようやく適正価格でより高品質なワインを手に入れられるようになった。その一方で、カリフォルニア産ワインの新たな流入により、ワシントン州の多くのワイナリーは廃業に追い込まれた。法案が通過した時点で、ワシントン州のワイナリーはわずか12軒しかなく、ナパ・ヴァレーには16軒あった。ワシントン州のワイン産業が回復するには数年を要したが、法律の改正は一部の人々にとって祝福と受け止められ、やがてワシントン・ワインはワイン界で確固たる地位を築いていく事となる。
1972年:セージモア(Sagemoor)、コールド・クリーク(Cold Creek)、セライロ(Celilo)、マーサー・ランチ(Mercer Ranch)の各ヴィンヤードで最初の植樹が行われ、このうちマーサー・ランチは1996年にシャンプー・ヴィンヤード(Champoux Vineyard)に改名された。
セージモア(Sagemoor)はその後、バッカス(Bacchus) とダイオナイソスDionysusという2つの畑も増やし、ワシントン・ワイン業界初の大規模なブドウ畑となり、セージモア(Sagemoor)のブドウは、ワシントン州を全米第2位のワイン生産州へと発展する原動力となった。


1973年:ヤキマ(Yakima)ヴァレーのレッド・ウィロー(Red Willow)ヴィンヤードで最初のブドウの木が植樹。
1974年:この年までに、ウォルター・クロア(Walter Clore)博士は研究ステーションで312品種のブドウの植樹を統括する。
1974年:レオネッティ(Leonetti)セラーがワラワラ・ヴァレーで最初のカベルネ・ソーヴィニヨンを植樹。

1974年:ロサンゼルス・タイムズ紙が19のホワイト・リースリングのブラインド・テイスティングを開催。サンミッシェルの1972リースリングが1位になり、このワイナリーは全国的に脚光を浴びる。
1975年:レッド・マウンテンに最初のブドウ畑を植樹。
1976年:サンミッシェル・ヴィンヤーズ(Ste Michelle Vineyards)がウッディンヴィル(Woodinville)にオープンし、シャトー・サンミッシェル(Chateau Ste Michelle)と改名。
1978年:シャトー・サンミッシェル(Chateau Ste Michelle)が初めて単一畑のカベルネ・ソーヴィニヨンを造る。
1979年:アンドレ・チェリチェフ(Andre Tchelistcheff)はシャトー・サンミッシェル(Chateau Ste Michelle)のカベルネ・ソーヴィニヨンを「これまでに味わった中で最高の1本」と称賛。
同年、クィルシーダ・クリーク(Quilceda Creek)が最初のワインをリリース。
1980年:ワラワラ・ヴァレーにあるセブン・ヒルズ・ヴィンヤード(Seven Hills Vineyard)で8.5haのメルロとカベルネ・ソーヴィニヨンが初めて植えられる。
1980年:ヤキマ(Yakima)ヴァレーにカベルネ・ソーヴィニヨン、メルロ、カベルネ・フラン、シュナン・ブランを含むブシェイ(Boushey)ヴィンヤード設立。
1981年:ワシントン州に19のワイナリーが誕生。
1982年:ドイツのワイナリー、フランツ・ラングース(Franz Langguth)がワシントン州マタワ(Mattawa)にリースリング専門のワイナリーをオープン。1987年まで続いたが、これがワシントン州における最初の外国投資となる。
1983年:ヤキマ(Yakima)ヴァレーがワシントン州初のAVAに認定される。
1983年:レオネッティ・セラー(Leonetti Cellar)が初めて手がけた1978年のカベルネ・ソーヴィニヨンが、ワイン・ステイト誌のワイン&スピリッツ・バイイング・ガイドで全米ベストに選ばれる。

1984年:ワシントン州がアメリカ第2位のプレミアムワイン生産地となる。
1984年:ワラワラ(Walla Walla)ヴァレーがAVAに認定。
1984年:コロンビア(Columbia)ヴァレーがAVAに認定。
1986年:ヤキマ(Yakima)ヴァレーのレッド・ウィロー(Red Willow)ヴィンヤードで、州初のシラーを植樹。
1987年:ワシントン・ステート・ワイン・コミッション(Washington State Wine Commission)が設立される。

リック・スモールが
ワイン・スペクテーターの表紙に載る
1995年:シャトー・サンミシェル(Chateau Ste. Michelle)とイタリアの著名なワインメーカー、マルケージ・ピエロ・アンティノリ(Marchese Piero Antinori)がコル・ソラーレ(Col Solare)のファースト・ヴィンテージをリリース。
1995年:ピュージェット・サウンドPuget SoundがAVAに認定。
3. 現代 1997年~2021年
1997年:カユース(Cayuse)ヴィンヤーズが、後にワラワラ・ヴァレーのロックス・ディストリクト・オブ・ミルトン・フリーウォーター(Rocks District of Milton-Freewater)として知られるようになる場所に、最初のブドウ畑を植える。

1998年:テイスト・ワシントンがシアトルで初めて開催され、後に単一地域としては国内最大の食とワインの祭典となる。
1999年:シャトー・サンミシェル(Chateau Ste Michelle)がドイツの著名なワインメーカー、アーネスト・ローゼン博士(Dr.Ernst Loosen)と提携し、エロイカ(Eroica)リースリングのファースト・ヴィンテージをリリース。
同年、チャールズ・スミス(Charles Smith)がKヴィントナーズを立ち上げ、主にシラー単一品種に注力する。
同年、ジェイムス&ポピー・マントン夫妻がコロンビア・ゴージュ(Colombia Gorge AVA)にシンクライン(Syncline)を設立する。
2000年:生産者の数とブドウの栽培面積が劇的に増加し、業界の「ビッグバン」となる。
2001年:ワシントン州議会が、ウォルター・クロア(Walter Clore)を「ワシントンワイン産業の父」と正式に認定する決議案を可決。

2001年:レッド・マウンテン(Red Mountain)がAVAに認定される。
2003年:ワシントン・ワイン・インスティテュートと教育パートナーは、ワシントン州の成長するワイン産業を支える2年制および4年制の学位プログラムを新設するため、州が230万ドル(2年毎)を投資したことを祝う。
2004年:コロンビア・ゴージュ(Columbia Gorge)がAVAに認定。
2005年:ロバート・パーカーのワイン・アドヴォケイト誌で、2002年クィルセダ・クリーク(Quilceda Creek )カベルネ・ソーヴィニヨンがワシントンワイン初の100点満点を獲得。
2005年:ホース・ヘブン・ヒルズ(Horse Heaven Hills) がAVAに認定。
2006年:カベルネ・ソーヴィニヨンの生産量が初めてメルロの生産量を上回る。

ロバート・パーカーはデリールセラーズを
ワシントンのラフィットロートシルトと名付ける
2006年:ラトルスネーク・ヒルズ(Rattlesnake Hills)がAVAに認定。
2006年:ワルーク・スロープ(Wahluke Slope)がAVAに認定。
2009年:コロンビア・クレスト(Columbia Crest)2005カベルネ・ソーヴィニヨンがワイン・スペクテーター誌で世界ナンバーワンに選ばれる。チャールズ・スミス(Charles Smith)ロイヤル・シティ・シラー( Royal City Syrah)がワイン・エンスージアスト誌で100点を獲得。
2009年:レイク・シェラーン(Lake Chelan)がAVAに認定。
2009年:スナイプス・マウンテン(Snipes Mountain)がAVAに指定される。
2010年:ワシントン州に441番目のワイナリーが誕生。
2011年:業界の関係者一同は、投票により、ワシントン州立大学に世界最高水準のワイン科学センターを設立するための資金を確保するため、業界全体の年会費を引き上げることを決定する。
2011年:ナチェス(Naches )ハイツがAVAに認定。
2012年:赤ワイン用ブドウの生産量が初めて白ワイン用ブドウの生産量を抜く。
2012年:エンシェント・レイクス(Ancient Lakes)がAVAに認定。
2013年:カベルネ・ソーヴィニヨンがリースリングとシャルドネを抜き、ワシントンで最も生産量の多い品種となる。
2015年:ワシントン州リッチランドのワシントン州立大学にサンミシェル・ワイン・サイエンス・センターがオープン。
2016年:ルイス・クラーク(Lewis-Clark)ヴァレーがAVAに認定。
2019年:ワシントン州に1000軒目のワイナリーが誕生
2020年:ロイヤル・スロープ(Royal Slope )がAVAに認定。
2020年:キャンディ・マウンテン(Candy Mountain)がAVAに認定される
2021年:ザ・バーン・オブ・コロンビア・ヴァレー(The Burn of Columbia Valley )がAVAに認定。
2021年:ホワイト・ブラフス(White Bluffs)がAVAに認定。
2021年:グース・ギャップ(Goose Gap) AVAに認定。